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  シャンパーニュの隠された一面  (フランソワ デュマ)
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シャンパーニュの隠された一面


祭事やお祝い事の際に開けられる“シャンパーニュ”という魔法の言葉ですが、この素晴らしい泡の裏に秘密の影の側面を隠してはいないでしょうか?18世紀以来、シャンパーニュの成功物語は否定できません。この飲料は、あっという間に伝説となりました。ドン・ペリニョンが例えシャンパーニュの製造方法の発明者では無かったとしても、彼の伝説は異論無くシャンパーニュのマーケティングに役立っています・・・しかし今日、彼はブドウ畑やそこから生産されているワインを認めるでしょうか ?

素晴らしい成功は“二次的被害”をもたらしています。つまり、植物衛生向けの化学製品の大量使用です。殺虫剤、除草剤、化学肥料が高い収穫量を得るためにたくさん使用されています。シャンパーニュは、大手のネゴシアンによってブドウの売買がキロ単位で交渉される経済システムです。このシステムにより、ブドウ栽培者(ブドウを販売する人達)は多くの利益を得るために、最大限のブドウを生産するようになるという、悪影響をもたらします。極端な高収穫量がワインのバランスを崩すことは知られていますので、それは醸造学的な方法で“治癒”や“修繕”がなされることとなります・・・

シャンパーニュは、今日、販売・経営危機を全く体験していないフランスで唯一のワイン生産地域です。
2006年は、2005年に比較して輸出は2倍の増加となり、フランスと世界で14,000,000ボトル多く販売されました。また新しい市場の開拓も目撃しました:インドは125%の上昇、中国は同50%、ロシアは同34%、そして日本は同34%上昇です。合計で、最終的には2006年に320,000,000ボトル以上が販売されました(内訳はシャンパンメゾンが68%、23%がブドウ栽培・ワイン醸造家、9%が協同組合)。

2007年も同様の方向となりそうです(もしむしろ良いものでなければ)。シャンパーニュ地方の人々は、さらに喜ぶことができそうです。シャンパーニュの販売は、2007年に新たな販売記録を達成しました。338,000,000ボトルが2007年に流れ出ました。これは、2006年よりも5.3%の上昇です。輸出は、さらなる力強さを誇示しています。2007年は158,900,000ボトルが販売されました。2006年よりも7.3%の増加です。輸出の好調さは、一つには東ヨーロッパでの販売増加が要因です。確かに販売量はまだまだ非常に少ないですが、2007年で最も重要な進展は、近年EUに加盟した国々においてのものと言えるでしょう。

アジアも例外ではありません。アジアは、輸出量において現在9%の割合を占めています。30年前は2%でした。日本は、もっともシャンパーニュを抜栓している国で、9,100,000ボトルです。これは中国の656,000ボトルをはるかに上回っています。しかしながら、中国への輸出量はこの5年間で9倍になりました。

この10年でシャンパーニュの平均価格はほぼ35%上昇しました。シャンパンメゾンの価格が最も急速に上昇していて7%の上昇であるのに対し、ブドウ栽培・ワイン醸造家のものは2.1%の上昇です。シャンパン1ボトルが蔵から出たときの平均価格(税抜き)は、12.83ユーロ(プロフェッショナル向け)です。しかし、この力強い販売力は、何を隠しているのでしょうか?

隠蔽することの難しい過去


今でも、いわゆる“都会の肥料”と呼ばれる、とても印象的な廃棄ごみが残っています。この“都会の肥料”とは、実際にはつい最近まで認可されていた街のゴミ捨て場を意味します・・・(都会ゴミ肥料の散布は1999年以来、ブドウの生産地域では禁止されています)

シャンパーニュ地方は、散布を禁止するまでに時間がかかりました。この都会の肥料とは、実際には家庭ゴミを砕いたものであり、これを畑に撒いてきました。毎回耕作の後で、青色のゴミ用ビニール袋の細片が出てきます。科学者は、土壌の汚染や食物連鎖の破壊など、長期間に及ぶ公害のリスクに警鐘を鳴らしました。重金属や病原菌をもたらす危険だけではなく、ブドウ畑のイメージやそこから作られるワインを損なう点においても批判されるべきものです。牛用の餌として動物粉を利用したことに匹敵するこの悪習の残存物は、プラスティックの破片やズタズタに破れたゴミ袋などです。選別廃棄が実施されていなかったころには、いったい何がゴミとして捨てられていたのでしょうか ?

“古い世代”の都会ゴミ肥料の中に、プラスティックやガラス、金属が豊富にあることは明らかであり、これはとても評判が悪いものです。したがって、現在、木のおがくずなどの下に隠そうとしています。生産性本位のこの習慣の結果は明らかです。被害の広がりを見るには、ブドウ畑を散歩するだけで十分です。不正な都会のゴミの残存物は、とてもゆっくりと土中に消えていくか、何トンものおがくずの下であっても全く隠れていないかです。おがくず用の木は、ヤニを出すポプラ属であり(もしかしたら毒性をもった)、これは水を保持すると思われます。そして、土壌のミミズ類や細菌類の増殖に良いとされています。

シャンパーニュのブドウ畑がほとんど耕作されていない事を知っています。もっともひどく扱われるブドウの木々は(除草剤、過度の化学肥料、ヘリコプターによる様々な処置)15年で枯れてしまいます。そして、グランメゾンの“グランキュベ”用のブドウ木々においても、その命は35年です。しかしながら、もし土壌の持続性に注意を払わないのであれば、どうやってテロワールの概念を主張できるのでしょうか?

収穫量だけでは十分ではない:拡大しよう!
生産量の上昇、収穫量は爆発的な増加へ・・・


ブドウ畑の階級によって決められていたブドウのキロ当たりの価格は、1999年以来もはや一定ではありません:価格は自由で、ブドウ生産者とネゴシアンの合意の下で決定されます(現在はだいたい1キロ当たり5ユーロです)。

生真面目なブドウ栽培者は、ワインの質というよりも、マーケティングのために一生懸命働いていると不満をこぼしています。収穫が早すぎることに対しても不満を言っています。ブドウの腐敗の進展が怖いため、ブドウが十分に熟すのを待たない為です。そしてブドウは頻繁に、選別することなく圧搾機の前に到着します。状況を調整するのはワイン醸造学の仕事です。過度のドサージュの添加によって恐るべき酸味を隠したシャンパーニュが存在します。異常な量のドサージュは、酸度が高い無選別で収穫されたブドウの低品質を隠すためでは無いでしょうか ?

今日、319コミューンがシャンパーニを生産しています。言い換えるなら、33,500ヘクタールのブドウ畑です。しかしながら、これでは、世界の需要をまかなうのに十分ではないようです。

1927年の法律は、ブドウ品種や生産方法など、高貴なワインの品質を保つための本質的な条件を明示しています。第3条はそのうえ、規定とは別に以下のように明記しています<原産地呼称に関しては、ワインが、もし地方の公正で確固とした方法によって確立されたブドウ品種や生産方法に由来するものでなければ、いかなるワインも原産地呼称名称を名乗る権利はない。生産地域は、原産地呼称のワインを生産するための一面です>。

シャンパーニュの原産地呼称の規定の見直しが行われています:シャンパーニュに、22,000ヘクタールを追加するかどうかが問題となっていました。そして3月13日に、357コミューンが原産地呼称地域になることがINAOのプレジデントであるYves Benard氏によって発表されました。彼は、シャンパーニュ出身で元LVMH社(世界第一位のシャンパンメゾン)の指導者です。

新たに40コミューンが原産地呼称地域に含まれました。一方で現在でも既に端役的存在であった2つのコミューンがこの地図から抹消されました。過去の原産地呼称の規定には含まれていなかったこの新しい“テロワール”がどのようなものであるか疑問です。もちろん、“素晴らしい”テロワールではありません!現在のビート畑や牧草地が、これからAOCシャンパーニュとなることによる土地の値上がりについては話されてはいませんが、数百万ユーロと推測されています(反対に抹消された土地は損失を被ります)シャンパーニュの裁判所は、仕事が足りなくなることは無いでしょう。

それだけではなく、収穫量はどんどん多くなるでしょう。100年前には“記録的”な収穫でも30ヘクトリットルでしたが、今日では、おそらく平均収穫量で100ヘクトリットルに近いかと思われます:シャンパーニュの生産量は、おそらく果てしなく増やすことができるでしょうが、品質は安定するのでしょうか?同じものの見方をすれば、シャンパーニュのブドウの房は20年で重さが約2倍になったことを考慮しなければなりません。その上、シャンパーニュの認可されている収穫量は、この年、Vin de Tableの収穫量を超えて、15,500Kg/ヘクタールです。これは、100ヘクトリットルです(これだけ多い収穫量はEUでは禁止されているかもしれません)。上位3000Kgは、品質の良いリザーブとして、今年は別に保存されています!このような高収穫量からは、潜在的アルコール度数は、たいていは8%以下であり、薄い酸味、そして2007年では収穫時には非常に多くの灰カビが発生していました。一体どうしてこのリザーブが品質的に優れていると言えるのでしょうか?

シャンパーニュ地方の有機栽培のブドウ畑や生産者、またビオディナミの割合は、フランス全土でもっとも少なく、面積辺り0.5%以下です。 シャンパーニュは、フランスでもっとも汚染されていて、またもっとも汚染源となるブドウ栽培・ワイン醸造地域です。フランスは、ヨーロッパ全体の殺虫剤の消費量の50%を占めています。ブドウ栽培・ワイン業界全体でフランスの3%の農地を占めていますが、この業界はフランスの全殺虫剤の使用量の20%を消費しています。

シャンパーニュ地方は、農業地域として、もっとも殺虫剤を消費する地域です。水道水は、標準規定値の最大5倍の殺虫剤が含まれています。Marne川は魚の死亡率が非常に高く、またこの川に生息する様々な種に不妊症や雌雄同体現象が見られています。1999年、Marne川の汚染によって収穫時期に養魚が多数死んだことから、ブドウ畑から川に流れ出る排水に対して何らかの対策をとるように行政側から強い圧力がかかりました。シャンパーニュの心土は巨大な白亜質の層からなっていて、チョークの保水性はたいていの殺虫剤が移動することを妨げることから、これから長期に渡ってシャンパーニュ地方の水の問題が続くことを覚悟しなければなりません。しかしながら、経済的成功のおかげで、シャンパーニュ地方は、環境を尊重したブドウ栽培・ワイン醸造を行うための労働力に追加で費用を投入することができる最も相応しい地域では無いでしょうか ?シャンパーニュ地方は、その確実な収穫により、他のブドウ栽培地域のように消滅するおそれのある状況ではない唯一のブドウ栽培地でしょうか?

シャンパーニュ:それは魔法使いでしょうか? 最後に、飲料マーケティングとは別に、私たちは一般的なワインには“不足している”ものを味わっているおかげで、シャンパーニュ地方の(数は少ないけれども)ブドウ栽培・ワイン醸造家を賞賛することは不可能では無いでしょう。優れた生産者のシャンパーニュの試飲は、シャンパーニュがまさにワインであることを証明するだけではなく、非常に素晴らしいワインとなりうることを証明しています。複雑さ、余韻、個性、栄養分の豊富さなど良い意味で。偉大な多様性やシャンパーニュのテロワールの豊かさの重視、抑制された収穫量や環境・消費者の健康への配慮、ヴィンテージ毎の個性の尊重、自然が自然に私たちに申し出るものを表すこと・・・つまり、ワインが私たちを喜ばす全ての要素があります。シャンパーニュでは、すばらしい発泡性ワインを作れます。残念ながら数は少ないですが、探す価値はあります。