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  ワイン内の硫黄(SO2)に関する考察 (デュマ フランソワ) 
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ワイン内の硫黄(SO2)に関する考察 (デュマ フランソワ)

リンゴを半分に切ってそのまま放置してみよう。すぐに、果肉は褐色に変色し好ましくない兆候を見せる。酸素に触れた部分の味覚は変化し、新鮮さを失う・・・ブドウ果汁やワイン自体も同じことだ。すぐに酸化し、お酢に変化することもある。では、どうしてワインを守るはずの硫黄が、最近ますます問題になってきているのだろうか?

硫黄、もしくは二酸化硫黄(SO2)は、防腐や酸化防止の役割として、数多くの食品内に使用される(時に、大量に)。硫黄は鉱物で、植物の成長に非常に重要な役割を果たす(ある種のたんぱく質や酵素の形成や葉緑素の生成など)。ブドウの中にも少量が存在する。加えて、ブドウ果汁の発酵最中に、酵母は硫黄を生成する。

ワインはブドウ果汁を発酵させたものであり、その熟成は直接酸素と関係する。ワインは常に、特に発酵中と熟成中に、酸素と頻繁に触れあう。ブドウが圧搾されて発酵槽に移されると、すぐに酸素と接触する。硫黄は様々な形で発酵中に添加される:無水亜硫酸、二酸化硫黄(SO2)、重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウムなどだ。これらは、ある条件の下では硫化水素(吐き気を催すH2S)、亜硫酸や硫酸(より刺激的なH2SO3やH2SO4)となる。

醸造学のセオリーでは、問題は添加量としつつ、硫黄無しの醸造は考えられないとしている。Emile Peynaud氏は、著書「Connaissance et travail du vin」の中で一章を硫黄に割いているが、彼は「ワインは、保存料無しでは、販売に至るまでの運送や取り扱いには耐えられない」と述べている。量が少なすぎれば通常のワインは酸化を免れないし、甘口ワインでは再発酵の可能性があるからだ。もし、硫黄の量が多すぎれば、マッチのような香りをともない、不快な味覚も感じる。

ワインの保存に関しては、ギリシャ人やローマ人は、松脂や海水をワインに入れることで、比較的成功していたようだ。確かに硫黄の防腐性効果は、エジプト文明から知られていたものの、ワインの保存のためにいつ頃から使用されたかについては不確かだ。ワインの保存に使われていたものは樹脂や海水であったことが様々な研究で発表されている。また、ローマ人が新しい植民地にブドウの樹を植えていた事実は、ワインが上手に運送できていなかったことを意味している。ヨーロッパにSO2の使用が広がってきたのは15世紀からにすぎず、それも、硫黄灯心で樽を殺菌するためであったと考えられている(この方法は現在でも使われている。これがワインや果汁に反映することはない)。したがって、ワインの歴史は自然なワイン(vin nature)の歴史でもあると考えることは不可能ではない・・・

急激な変化は、19世紀の終わりに訪れた。第1に、1864年にガール県から始まったフィロキセラ禍だ。フランスのほぼ全ブドウ畑を破壊し、ワイン不足をもたらしたが、同時に不正行為や人工的なワインの製造も引き起こした。従って、1889年の法律は、この悪習を改善する為に、ワインに法的な定義を与えた。つまり「(ワインは)新鮮なブドウ、もしくは新鮮なブドウ果汁を完全に、もしくは部分的に発酵した生産物」である。100年前は、今日とは衛生に関する概念は異なっていたが、1921年に他の法律がワインを<保存>するための幾つかの方法を認めた。その中にはSO2も含まれていた。

第2に、フランスによる北アフリカのブドウ畑の開拓が、ワイン内に体系的にSO2を使用するもう一つの理由となった。酵母によってブドウの糖分がアルコールに変化する時は、熱を放出する。40度を超えると酵母は活動することが出来なくなり、代わってバクテリアが活動を引き継ぐ。バクテリアはアルコールではなく乳酸や酢酸を生成する。従って、疑うこと無しに、収穫後、発酵が始まる前に大量のSO2をブドウに添加すれば、酵母の活動は弱まり、またバクテリアは活動しない。酵母がゆっくり活動するのであれば、発生する熱量もコントロールすることができる。従って、北アフリカでSO2はワインの保存と搬送において欠かすことが出来ないものとなった。このようにして、補正を目的とした醸造学が生まれた。いつの時代もいえることだが、<進歩>は、簡易さと怠慢さによって、濫用を引き起こす。腐敗していても関係なくブドウを収穫し、醸造を手っ取り早く済ませたい?SO2を<大量投与>すれば十分だ。



赤ワインはタンニンのおかげで劣化しにくいが、白ワインやロゼ、甘口ワインは醸造がより複雑で、比較的高い量のSO2が添加される。したがって、マッチの燃えたような匂いが鼻を刺すだけではなく、頭痛を引き起こすこともある。

実際に、SO2は無害ではない。強力なアレルギー物質である。それは、多くのワイン愛好家が経験しているだろう。ある人たちにとっては、甚大な健康障害を引き起こす可能性もある。SO2は、消化に関わるバクテリアを遮断することで、消化器官内でのワインの分解を妨げる。加えて、SO2はビタミンBを抑制する。ビタミンBは、肝臓が糖分やアルコール派生物を代謝するために欠かせないものだ。ビタミンBが欠乏している人では、アルコールと代謝されない派生物は、血液内を長い間流れ続けて、神経細胞を刺激、破壊する。これにより、疲労や頭痛が引き起こされる。

世界保健機関(WHO)によって推奨されているSO2の1日あたりの許容摂取量は0.7 mg/kg。言い換えると体重60キロの人で1日あたり42mg。これは、甘口ワインのグラス一杯にも満たない数値だ。ヨーロッパで認可されているワイン内のSO2の量は、赤ワインは1Lあたり最大160mg、白ワインは最大同210mg、甘口ワインは同400mgだ。

“Contient des sulfites”(硫黄含有)というラベル表記は、2005年に収穫されたブドウにより作られたワインから出現した(アメリカでは、1986年から同国で生産されたワインに記載されている)。硫黄の含有を警告することになったのは、ヨーロッパにおけるアルコール飲料へのアレルゲンの表記が義務付けられたことに由来する。ワイン業界の圧力団体は、全ての食品に課せられたこのラベルの透明性義務について抵抗してきた。ワイン生産者が、果汁やワインに加える多くの添加物を表記することを避けるためだ。補糖、補酸、人工酵母、おがくず、など等。消費者は、もしこれらの情報を知ることが出来れば、確実に喜ぶはずなのだが。

しかしながら、この改革は、ほとんど意味はない。なぜなら、SO2の含有量が1リットルあたり10mg以上から、ラベルに記載しなければならないからだ。これは非常に少ない量である。特に、ヨーロッパで認可されている量を考えると。

少量であるが、ブドウの房には自然に硫黄が存在していることもあるが、ワイン分析では、含有量が最小の時は、値に重要な誤差が生じることがある。SO2を添加しない状態でワインに10mg以下の硫黄が含まれている場合であっても、分析は+/-5mgの誤差が生じる可能性があることから、生産者は“contient des sulfites”(硫黄含有)という表記をラベルに明記しなければならないのだ!

したがって、消費者は本当に興味のある情報を得てはいない。とても厳格で才能ある生産者が生産するSO2含有量15 mg/Lという認知できないレベルのワインと、大ざっぱな生産者が作る10倍のSO2が含まれているワインの違いは、ラベルからは分からないからだ。最も重要な点は、SO2が入っているか否かではなく、その含有量だ。

“Contient des sulfites”という記載は、二酸化硫黄を添加していないワインにも影響がある。理論的には、“Ne contient pas de SO2 ajoute”(添加したSO2は含んでいない)という記載ができるわけだが、既に指摘したとおり、分析では誤差が生じる。したがって、生産者は単純に“Contient des sulfites”という表示を残すことを好む。

認証≪Bio≫、 ≪ Nature et progres ≫、 ≪Biodynamique≫は、ヨーロッパの通常の許容量よりも2〜3分の1しか硫黄の添加量を認めていないが、問題は明らかに複雑であり、その含有量の問題だけに帰着するわけではない。

醸造学上の全ての危険を回避する為、硫黄は醸造過程全般で使用されるかもしれない。傷ついたブドウからの保護、圧搾、醸造中、熟成中、そして瓶詰時。最悪の生産者は全ての過程で使用する。能力のある生産者は、繊細な注意を払う必要のある時期は添加しない。特に、発酵中は、ワインに個性を与える自然酵母を殺さないために使用しない。瓶詰時には、ワインを安定化させるために、もしかしたら軽く添加することはあるだろう。特に、配送と保存の状態について確信できない場合は。

したがって、添加する硫黄の量や、どの過程で添加するなどは、各蔵元で異なり、生産者や醸造長の習慣や、生産するワインの種類、そして各ヴィンテージのブドウの健全さの状況による。最低限の硫黄添加にとどめるビオロジックやビオディナミの生産者は多いが、ネゴシアンや幾つかの巨大な蔵元は頻繁に大量の硫黄添加を行うことがある。

赤ワインは、白ワインやロゼワインより一般的には硫黄含有量は少ない。これは、赤ワインのタニンが自然の安定剤として働くことが知られているからだ。半甘口や甘口のワインは辛口ワインよりも多くの硫黄を添加することが多い。残糖の存在(酵母によってアルコールに変換されなかったブドウの糖分)は、ワインを不安定にするためだ。多量の硫黄添加は、ボトル内での再発酵を予防するものとみなされている。Emile Peyraud氏は「この悪魔のような香りが無ければ、どれだけのワインがもっと上品で、繊細で個性的でバランスの良いものになるかもしれないのに」と述べている。

醸造家や醸造長が蔵元の所有者で無い場合は、問題はより大きくなる。なぜなら、こういった状況下では、最大量のSO2添加によって安全を確保したワインを作ることで、労働者は雇用者に対する不安を軽減できるからだ。醸造学校の授業は、アルコールと良い色と、危険回避に限定される。

辛口白ワインでは、多くの生産者が、マロラクティック発酵が起こるのを避ける。ワインはリンゴ酸を保つ為に、より新鮮さを持つ(時々、非常に酸味が高くなる為、攻撃的にも感じられる)。ワイン内でマロラクティック発酵が確実に起こらないようにするために(消費者には瓶内でマロラクティック発酵が起こることによって生じるピリピリした感覚はあまり好まない)、比較的多量のSO2を添加する。

最初の硫黄添加は、収穫後にブドウを桶に入れたら直ぐに行われる可能性がある。これは、ブドウ畑や醸造所に存在する自然酵母の働きで、アルコール発酵が直ちに起きるのを防ぐためだ。これにより、後に人工酵母の添加が可能になる。実際に、自然酵母の活動は、農産物加工業の研究所で培養された人口酵母よりも予測が難しい。こういった早いタイミングでの硫黄添加と人工酵母の利用は、多くのワイン生産者の一般的なやり方である。特に、ネゴシアン向けや大型店向けにワインを供給している生産者に多い。この手法は、テロワールの概念の否定であると指摘する生産者も多い。

もちろん、立派な生産者や有機栽培の熱心な支持者は、収穫後の硫黄添加や人工酵母は使用しない(しかしながら、収穫時に非常に重大な病気の蔓延にみまわれたヴィンテージにおいては、通常は行わない生産者であっても実行に踏み切ることがあるだろう)

次に、発酵期間中における酵母の量のコントロールと、バクテリアの発生を抑制するために、硫黄は定期的に添加されるかもしれない。またアルコール発酵後の熟成中にも添加されるかもしれない。そして、瓶詰時だ。≪ vinifies sans soufre ≫(醸造時の二酸化硫黄無使用)のワインであっても、配送や保管が15度以下で無い場合に生じかねない問題を避けるため、瓶詰時には添加するかもしれない。



ワイン内のSO2の変転は非常に複雑だ。一部は糖分や色素成分、ビタミン(B1を破壊する)、ピルビン酸、ケトン、そしてアセトアルデヒドと結合する。この最後の結合はとても特殊だ。なぜなら、酵母自身が、まさにSO2から身を守るために、アセトアルデヒドを作り出すからだ。したがって、何ものとも結合していないSO2が、酸化防止の役割を果たす。結合しない<自由>なSO2を得るために、発酵前に多量のSO2を添加する必要があるかもしれない。

現在の醸造学は、結合したSO2が、自由なSO2の2倍を超えないようにとしている。すなわち、15 mg/Lの自由SO2が、辛口ワイン(1L辺り5g以下の残糖)を守るのに十分であると許容した場合、結合したSO2が30 mg/Lであるべきであり、SO2合計で45mg/L(自由+結合)となるべきである。

そういうわけで、SO2は一部が結合する。ワインのバランスとPH値、様々な要素によるが、だいたい3分の2だ。自由SO2だけがワインの保護者の役割を果たす。許容量の許す範囲でワインに添加された合計SO2のほんの一部分だけである。

香りにも味覚にも感じられるのは、この自由SO2である。過度な自由SO2、これが頭痛などを引き起こす。Max Leglise氏は、自由SO2は「接触し吸収する全ての器官の粘膜にとって深刻な腐食物質だ」と言う。数多くの食品から形を変えてたくさん吸収している可能性が多いに高いことは分かっている。したがって、推奨摂取量を超えないことはおろかなことではない。

したがって、純粋で自然で消化しやすいワインを生産することを目標として、生産者は今日、醸造に使用する硫黄の削減にとりかかっている。耕作においては、ブドウの健康状態や収穫時の衛生状況などに厳格さが求められ、収穫時の選別や醸造過程において本物の技法が必要となるだろう。

一般的には、厳格で強い欲求を持った生産者であり、ビオロジックやビオディナミを実践している場合が多い。彼らは、SO2が絶対に欠かせないものとは感じない方法に到達する。真っ当で正統なテロワールの表現を強く推奨したJules Chauvet氏の後継者たちは、ブドウ畑とブドウに最も寄り添い、添加物や様々な化合物とは最も遠い位置に位置している。Stephane Derenoncourt氏やClaude Bourguignon氏など、適度なSO2の使用は必要であると考えている人々であっても、収穫時のブドウの質と熟成具合は非常に重要であると考えている。

したがって、もし生産者が自分のブドウに自信があり、必要なルールを尊重すれば、醸造時や瓶詰時にSO2無しに行うことは不可能なことではない。しかしながら、ビオロジックの生産者であっても、常に、完全にSO2無しの醸造を要求することは不可能だ。使用するか否かは、結局のところ各ヴィンテージの状況によるからだ。


しかし、二酸化硫黄を添加せずにワインを醸造するリスクは、とる価値があるといえるだろう。それらのワインは、その価値にみあうだけ純粋で味わいに溢れているからだ。最近の傾向は、添加量をはっきりと減らす方向にある。そのためには、幾つかの条件の研究が必要だ。バランスよく熟成したブドウを収穫するために各区画とブドウ品種ごとの熟成具合の研究、(手摘みによる)厳しい選果を伴った収穫、醸造所と機器の衛生管理、発酵と澱上での熟成管理(澱は酸素に餓えており、酸化防止効果を持っている。また発酵時に発生するCO2も酸化を防ぐ役割を果たす)、そして、規則正しくワインをチェックすることと、必要な時に目減り分のワインを補うことだ。

Jules Chauvet氏の教えは、今、もっとも現実味をおびている。ブドウ畑とブドウに寄り添って、真っ当で伝統的なテロワールの表現の追及、そして添加物や化合物から距離を置くこと。したがって、ますます生産者はSO2を使用しない方向で努力している。まだまだ規模は小さいため、それらのワインは議論や意見を時に引き起こす。失敗と紙一重のワインがたくさんある。しかし、成功しているワインは、比較にならないくらいの満足をもたらしてくれる。それらは、上品な香りと透明性、純粋性を持っており、本当に素晴らしいものだ。

しかし、これらのワインはとても新鮮で、生きていて、脆いものだ。常に低温で保管しなければならない。常に15度以下が求められる。数ヶ月間、味覚に乏しく閉じている時期があることが知られている。そして抜栓した際に、時々炭酸ガスが生じることもあり、これはワインを飲みなれていない消費者にとっては、混乱の元となるので、取り除くことが望まれる。大手スーパーなどでは手に入らないこれらのワインはビストロやワインに特化した酒屋のものだが、最近は星付レストランでも扱われることが多くなってきている。

残念ながら、あまりにも多くの生産者が、軽はずみに硫黄無しのワイン作りに乗り出している。忘れられないような奇跡のようなワインが存在する一方で、どれだけのワインが衰えたり、しなびたり、酸化したりしていることか。SO2無しのワイン作りの目的が、果実味とテロワールの純粋さを保持することであるはずなのに。失望の後、何人かの生産者は、理解し、学ばなければならないことを発見する。その多くは、Jura地方のPupillinに巡礼する。この世界では、異論の無い教祖であるPierre Overnoy氏と会うためだ。この謙虚な生産者は、数十年に渡りSO2無しで醸造を行っている。彼が作る、豪華で誰も到達できないArboisは、なんの問題もなく素晴らしく熟成する。彼は、僧侶のような優しさを持って説明を始め、巡礼者を意気消沈させる。彼は言う「幾年にも渡り耕作されてきたブドウの樹は、非常に深くまで伸びた根を持っており、それがワインの自然な保護となるミネラルや酸味を与える。収穫が健全で、適切、そして選果が行われ、生き生きとした自然酵母は、ワインが必要とする量だけの自然な硫黄を徐々に引き出す・・・」